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最高裁判所第三小法廷 平成5年(行ツ)198号 判決

名古屋市千種区今池五丁目六番一五号

上告人

川合久子

名東区上管一丁目四二一番地

上告人

川合康弘

中区丸の内三丁目一九番一四号

上告人

川合陽子

右三名訴訟代理人弁護士

中村弘

名古屋市千種区振甫町三丁目三二番地の三

被上告人

千種税務署長 獺越隆治

中区三の丸三丁目三番二号

被上告人

名古屋中税務署長 和田眞

右両名指定代理人

須藤義明

右当事者間の名古屋高等裁判所平成四年(行コ)第二三号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成五年九月二二日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中村弘の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下において、本件補償金の受領によって上告人らに一時所得が発生するとした原審の判断は正当として是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。所論は違憲をもいうが、その実質は単なる法令違背の主張にすぎず、原審の措置に違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫)

(平成五年(行ツ)第一九八号 上告人 川合久子 外二名)

上告代理人中村弘の上告理由

一 法令適用の誤り(その一)

原判決は「仮に、訴外組合の解散手続前に右分配が行われた点に何らかの問題があったとしても、それによって本件補償金が義興又は控訴人らの所得となるということ自体は何らの影響も受けない」として、本件補償金が所得になるとした。

しかし、土地区画整理事業が、個人の土地所有権(それは憲法二九条により保障された絶対的な権利である)に対し、当該所有者個々人の意思いかんにかかわらず制約を課すものであることに鑑みれば、本件補償金の交付が違法である以上、その交付は無効であると解すべきであって、本件補償金の交付が違法かつ無効である以上、それについて、所得は発生しないと解すべきである。

なお、本件補償金の交付が違法である理由は、それが土地区画整理法に規定のない金員の交付であるからである。

ところが、原判決は、前記のように述べているのであるから、原判決は、所得税法一条、二二条の所得の解釈、適用を誤った違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄されるべきである。

二 法令適用の誤り(その二)

原判決は、本件補償金請求権は「控訴人らにつき発生したものというほかなく、かつ、これは控訴人らの一時所得になる」という。

しかしながら、本件補償金は、川合義興が所有していた個々の土地につき発生したものである(乙五号証の資料3参照)。控訴人らにつき発生したものではない。

原判決はこの点においても、所得税法一条、二二条の解釈、適用を誤った違法があるから、破棄を免れない。

三 法令適用の誤り(その三)及び判例違背、審理不尽(その一)

原判決は、本件補償金が一時所得になるとした上で、その金額について「持分につき特段の定めがない以上、本件補償金請求権は控訴人らが持分均等の共有として取得したものと解するのが相当である」という。

しかしながら、本件補償金が川合義興が所有していた個々の土地について算定されているのである(乙五号証の資料3参照)から、仮に本件補償金が一時所得になるとしても、その持分は均等ではない。

原判決の見解は、名古屋地判平成四・八・一七金融商事判例九一二号三一頁、最判四〇・二・二民集一九巻一号一頁、最判四八・六・二九民集二七巻六号七三七頁、東京地判六〇・一〇・二五判タ五八〇号八六頁等多数の判例や、名古屋法務局供託官の取扱い(原審における調査嘱託参照)と矛盾しており、とうてい是認できないものである。

原判決は、この点においても、所得税一条、二二条、民法二六四条、二五〇条の解釈、適用を誤っており、のみならず、前記最高裁判所判例ほかの判例にも違反しているから、破棄を免れない。

また、原判決は、これらの点について、全く審理、判断を尽くすことなく、前記の結論を出しているが、これは、審理不尽というほかはない。

四 審理不尽(その二)

原審における審理全体を通じても、本件補償金の性質、支給根拠、受給権者等について、全く解明されていない。

そこで、上告人らは、土地区画整理組合の理事で、右の点について最も精通していると見られる安達の証人尋問を請求した。これは、原審における唯一の人証の請求であったにもかかわらず、原審はこれを却下した。しかし、このような重要な唯一の人証申請を却下するのは、裁判を受ける権利の保障(憲法三二条)の趣旨からみても、違法である。これは、訴訟手続の法令違反、審理不尽であり、とうてい承服できない。

この点においても原判決は破棄を免れない。

以上

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